農山漁村に吹く新しい風
「現代労働力不足と農への好奇心をマッチングする学生耕作隊」
慣れしたんだ茶畑が荒廃していく


 「農業に携わりたい。しかし、その方法がわからない」という人は多いものです。山口県に住む近藤紀子さんは、「農業に興味を持つ若者と担い手不足の農家の橋渡し」という思いを胸に、2002年、約30人の学生で農業支援型NPO法人「学生耕作隊」を発足させました。立ち上げから6年。現在では、山口県を中心に高齢化や後継者不足に悩む農家の援助を行い、隊員を社会人にも広げながら、各地の農山村の活性化についての啓蒙活動も行っています。近藤さんの活動を通して、農山村に吹き始めた「新しい風」をレポートします。
[地域:中国]


慣れしたんだ茶畑が荒廃していく

近藤紀子さん

 「もともと川や山で遊んだりすることが多く、自然がとても好きだったんです」
近藤紀子さん(26歳)は山口県宇部市出身です。子どもの頃から、近くの山や川で遊び、小学校5年のときには市内の小野地区に住むようになります。小野地区には、秋吉台に源を発する厚東川をせき止めた「小野湖」を中心に開けた西日本随一の茶畑が広がっています。気候は温暖、山は比較的緩やかであり、小野湖から発生する霧はお茶の栽培に適し良質のお茶が生産されています。
高校生になり、自然破壊、環境問題に興味をもった近藤さんは、砂漠緑化を志して山口大学農学部に進みます。しかし、砂漠緑化の研究は遺伝子組み換え技術によって砂漠に適応できる植物をつくるというものでした。「泥臭くて、ロマンチックなもの」に憧れていた近藤さんは別な道を模索することになります。
ちょうどその頃、世界の食糧事情を学びました。今後、世界人口は増加の一途をたどりますが、すでに農地はぎりぎりまで開拓され、また技術面も一定レベルまで進んでいるため、農業生産の急激な増加は見込めません。それどころか砂漠化の進行で、農地は減少しつつあります。
「このままでは世界の食糧需給は破綻してしまうと思いました。ところが、日本に目を移すと、食糧自給率は40%程度で輸入が頼りです。もし日本円の国際競争力が下がってしまったら、安全で新鮮なものを食べ続けられる保証はありません。それなのに日本は農業を大切にしていない。先進国はみな農業を大切にしているのに…」
身のまわりでも担い手不足から荒廃してゆく田畑が増えていきました。子どもの頃から親しんできた茶畑が荒れ放題になっているのを見て愕然としたこともありました。
「何か自分にできることはないだろうか」
近藤さんは「農業を元気にしたい。農山村を活性化させたい」と考えるようになりました。ところが、そうした活動のできる職業というものが見当たりません。地方自治体の職員も自分のイメージとは違うし、民間にもそういう職業もありませんでした。
「それなら自分で農山村の活性化を行う団体を立ち上げてみようか」
近藤さんは、そう考えるようになりました。


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