第10回オーライ!ニッポン大賞
NPO法人戸田塩の会(静岡県沼津市)


[地域:中部]

受賞者の概要


間伐材などの薪だけを燃料に約15時間炊き続けて塩を採る。

活動年数:17年(法人化後11年)
活動日数:281日
活動拠点施設:戸田塩の会作業所(沼津市内)
活動エリア:静岡県内
年間の交流人口:8,186(観光客としての見学者数)


受賞の内容


小中学校の体験学習も積極的に受け入れている。

紙芝居で戸田塩の作り方を子どもたちに語り継ぐ。

 旧・戸田(へだ)村は静岡県東部、伊豆半島の西北に位置する漁村で、平成17年に沼津市に編入された。
 平成7年、漁業の衰退と地域の活力低下に危機感をもった女性たちが立ち上がった。戸田ならではのもの、2番煎じではないもの、健康で健やかな生活に不可欠なもの、自然を破壊することなく持続可能なもの、交流人口を増やせるもの、他と競合しても負けることなく経済的に利潤が得られるもの、何より戸田の住民に喜ばれるもの……多角的に検討した結果たどりついたミッションが「日本一の戸田塩」を作る事だった。
 この土地には古くから塩づくりの歴史があり、約1,500年前、安康天皇に戸田の塩を献上したとの記録が残されていた。平成7年に東海財務局の許可を得て、女性有志で「戸田塩の会」を設立。製法が記録されていなかったので、海水を採る場所、火加減、煮詰める時間、塩を採りだすタイミングなど、全て一からつくりあげた。当初は海岸からバケツリレーで海水を運んだが、見かねた漁師が沖で汲み上げた海水を提供したのを機に、高齢で船をおりた元漁師の男性たちも参加し始めた。試行錯誤を繰り返し、徐々に設備を整え、「日本一の塩」と自負する製法を確立した。
 作り方はこうだ。港から1km離れた沖の海面下約15mから海水をくみ上げ、薪だけを燃料に13~15時間炊き続け、平たい釜の底にたまった塩の結晶を網ですくいあげ、4日以上ねかして完成。無添加の自然海塩にこだわり、燃料 にはベニヤ板や塗料の付いた木材は使わない。美しい海を守るため、海岸の定期清掃に加え、森林を豊かにする取組みとして、薪には間伐材も利用し、塩の販売収益の一部を森づくりに寄付している。
 平成13年にNPO法人化、平成14年に「戸田塩」を商標登録。関連商品に、戸田塩本にがり、海洋深層水を使用したアクア戸田塩、アクア塩あめ、化粧水アクアオンディーヌ水の精、戸田とロシアの友好の歴史を子どもたちに伝えるロシアケーキ「ディアナの錨」等がある。年間の売り上げは1,600万円超。
塩づくりは暑さとの戦いで、重たい海水や薪を運ぶのも重労働だ。仕事は無償ボランティアでは無く、少ないながらも給料を支給することも継続の秘訣。
 子どもたちに食や環境の大切さと地域の誇りを伝えたいと考え、小中学生に向けて体験学習の受入を行っている。紙芝居で塩づくりの工程を説明し、釜から塩の結晶を取り出す作業を体験する。県外からの教育旅行や、一般のグリーン・ツーリズム、海外からのJICA研修生等の体験も受け入れている。23年度の体験の受入は62回、782名に及び、観光客としての見学者は8,186名、イベントへの参加協力は21回に及ぶ。
 当地から駿河湾越しに臨む富士山の眺望は見事でメンバーも富士山が大好き。世界遺産登録のため、英語版の絵はがきを作成し、「ふじさんかっぽれ」の歌と踊りを創作して上海万博で披露するなど、世界に情報を発信している。


講評


 駿河湾の黒潮という地域資源に着目し、試行錯誤を繰り返して、日本一と自負する塩づくりの復活に成功。都市との交流の推進(塩づくり体験)、美しい海を守るための森づくりへの寄与など、積極的に地域に貢献している当団体の活動は、農山漁村の模範的な女性起業・コミュニティビジネスとして高く評価されました。