リーダーインタビュー
第11回 かしわで (千葉県柏市)(株)アグリプラス 代表取締役 染谷 茂さん

2010.11.11

かしわで (千葉県柏市)

[聞き手・文責:全国農産物直売ネットワーク 副代表 田中 満]
[地域:関東]

「都市に農業はいらない」とは言わせない

店内の様子 かしわで店内

「大都市内や近郊に農地があるから宅地が不足し住宅が高くなる。都市に農地はいらない。農産物が不足するならば輸入すればよい」などという都市農業不要論を、一部の財界関係者や評論家が声高に叫び、マスコミでも盛んに議論された平成8年。その頃、柏市内の農業者有志が農民塾に集まり、「都市農業を守ろう、都市住民の中に農業の理解者を増やそう」と議論を重ねた結果として、自分たちで農産物直売所を立ち上げることとなった。 平成12年12月から有志で具体的な計画づくりを開始し、15年6月に有限会社アグリプラスを発足した。同年10月に建設工事を開始し、16年2月に組織を株式会社に変更し、同5月に農産物直売所「かしわで」がオープンした。 経営主体の株主は、農業者15名と、支援者の市川市農協(旧田中農協が市川市農協と合併)、アグリビジネス投資育成㈱である。資本金8千万円、そのうち4千万円を農業者15名が負担した。 施設建設費は約1億5千万円であったが、備品購入などの費用を含めた初期運営までの必要経費は約2億5千万円を要した。資本金と補助金5,500万円の他は、15名の借金で賄った。


物の売り買いだけでなく、農業を発信する


 店の儲けよりも地元柏市農業の活性化を図ることを目標に、次の4点を経営運営の理念としている。(1)物の売り買いの場だけではなく、農業情報の受発信基地となり、広く市民に利用され、生産者と消費者の交流を深めることを目指す。(2)消費者の利益(安全・安心・安い・豊富・楽しい)を第一に考え、消費者に満足してもらうことを目標とする。(3)地元で生産した農産物を地元で消費する「地産地消」を展開し、消費者に農業理解を深めてもらい、都市の中で共生できる農業を目指す。(4)生産地であるとともに消費地でもあるメリットを活かし、都市型農業を展開することにより、農家所得の向上を図り、農業・地域の活性化を目指す。


人口39万人。週末は開店前から行列が


 人口39万人柏市の中心である柏駅から3㎞という立地で、大型住宅団地にも近いが、国道には面していない住宅地域に囲まれた地にあるので、市外からの客には分かりづらい地点である。店は木造平屋建てで天井が高く、売場面積290平方メートルと広くて明るく、駐車場も124台と広い。出荷農産物および来客数の増加にともない、軒下での販売や一部店外での鉢物販売も行っている。 新鮮な地元野菜を買い求める午前中の来客が多く、週末になると開店前に行列ができている。設立後しばらくは客単価が低かったのでスーパーや他店舗を調べると、当店は惣菜など農産加工品が少ないと気がつき、その分野の充実に努めてきた。


出資農家が経営を決め、60名を雇用する


15人の出資者で毎月「社員会」を開催し、経営方針を決めている。出資者のうち7人は社長、取締役(5人)、監査役に就任しており、役員会も年数回行う。 出荷会員で運営協力会を組織し、その中に野菜、米、果樹、花、加工品の5部会を設け、出資者もそのいずれかに所属する。出荷会員の販売品手数料は生鮮品15%、加工品20%。出荷物は従業員がチェックし、不良品は出荷者に理由を明記して返却する。売り残り品は閉店後に出荷者引き取りが原則。店の日常運営は従業員である店長の下に、職員5人、パート約50人。店舗担当、外商担当、生産者担当に分かれている。


女性部会、アンダー45も自由に活躍する


 会員農家は250人。そのうち市内農家は180人で、隣接の流山市、我孫子市、野田市農家が各20人。その他県内農家10人。入会金1万円、年会費1万円。年会費の半額は、毎月5品目ずつ実施する残留農薬検査費用となる。青森のりんご農家、北海道のじゃがいも農家、愛媛のみかん農家、山梨のぶどう・もも農家、長野の蜂蜜・ジャム農家など、地元で生産されない農産物は遠方農家(かしわで応援団)と直接取引している。 出荷者に当番などの義務はないが、イベントの手伝いには参加を呼び掛けている。また、販売品の品質向上を目指して、枝豆、とうもろこし、ねぎ、トマトなど販売量が多い主要品目ごとに品質検討部会を組織し、各部会で生産者4名程度が検討委員となっている。たけのこは3年前には10件以上のクレームがあったが、部会活動成果で昨年は1件もクレームがなかった。女性部会も設立し、独自にイベント参加、視察研修、市行事への協力などを行っている。若手農業者も「アンダー45」を組織し、やはり独自活動を行っている。


農家250名、年商10億の店に急成長


 販売額は3億7千万円(16年度)から年々順調に伸びて、21年度は9億9千万円弱。設立後2年半の間、出資者は無給で働くという苦労をした。借金返済には最低5億円の販売額が必要であったが、18年度には突破して会社として黒字経営となった。現在の客単価は平日1,700円、週末1,900円台。 会員農家売上額が総販売額の7割になることを目標にしているが、現在は6割。地元小規模加工業者の農産加工品委託販売が15%、遠方農家および他の直売所からの仕入10%、市場からの仕入が15%。外国産は売らない。店頭販売以外に市内学校49校のうち38校の給食食材として野菜と果物を年7千万円供給している。


年6回の「かしわでの日」等で地域に貢献


 イベントは「かしわでの日」「収穫祭」など年間約10回。「かしわでの日」は出荷者が地区ごとに運営を分担する。その他に、定員制で消費者を対象に田植え、稲刈り、じゃがいも掘り、さつまいも定植・掘り取り、太巻きづくり体験などのサービス行事を行う。また、それらの様子や農場の農作業、農産物成育状況を店内でビデオで紹介している。さらに、学校や生涯学習センターなどから食育関連の講演等の依頼も増え、積極的に対応している。


生産者を増やし、柏農業を活性化したい


 販売品の数量と品質が確保されれば、まだ売上額は伸びるとみている。課題としては、(1)会員数は設立時の150人から250人に増えたが、地域農業活性化のためにもっと増やしたい。現在は出荷者も客も柏市北部に偏っているため南部にも呼び掛けたい。(2)生産者の高齢化による出荷物の減少が心配。後継者の意欲を引き出したい。(3)田植え稲刈りの時期は出荷量が減り、仕入に頼るのが悩み。(4)スーパーのインショップ活動が激しくなり、農家の囲い込みを始めたため、スーパーの動向を注視する。